記述できる粒度
.muro に書けないことは多い。納まりも、下地も、接合部も、曲面も、機器の型番も書けない。
これは省略ではなく、抽象度の選択である。そして「まだ足りていない」でもない — 足せば機械の視野から外れ、目的が壊れる。カバー率は価値ではない。
図面が数百年運んできた抽象度
構成のほとんどは二次元で決まる。平面の割り付け、隣接、動線。そこにレベルと高さ、吹抜けや階をまたぐ関係が乗る。これで直交グリッドの建物は決まる。
重要なのは、これが新しい抽象化ではないことである。実務の成果物が今なお図面であり、確認申請が図面で行われているのは、建築の決定がこの抽象度でなされているからである。
koyu がやっているのは、その抽象度を紙から機械可読なテキストへ移すことだけである。解像度を落としたのではなく、決定がなされている解像度をそのまま採った。
この解像度で言えること
同梱の 11 階建て複合ビルに、次を問える。
npx tsx src/cli.ts site examples/tower/main.muro
Site /site (敷地)
Site shape: polygon with 5 vertices (a polygon declaration — given geometry)
Site area: declared 1097.80 m2 / derived 1097.80 m2
Road: /out/road-s (南側道路) width 12000mm / frontage 40600mm
Road: /out/road-e (東側道路) width 6000mm / frontage 20200mm
Building footprint (horizontal projection, rough): 569.60 m2 → building coverage ratio 51.9%
Total floor area: 4785.92 m2 → floor area ratio 436.0%
面積、用途別の集計、専有と共用の比、接道と建蔽率と容積率、採光の入力、扉の数で測った動線、段数と踏面と勾配、柱の立地、外皮の穴。基本計画で決めることは、この解像度でほとんど答えられる。
By use: rentable 558.08 m2 (11.7%) / common 1611.52 m2 (33.7%) / exclusive 2616.32 m2 (54.7%)
この解像度では言えないこと
| 言えないこと | どこに属すか |
|---|---|
| 納まり・下地・接合部 | 実施設計。物の言語 |
材料の層構成 (spec は名前だけ) | 実施設計。合成の後段レイヤーの候補ではある |
| 曲面と自由形状 | 対象外。直交グリッドで足りる建物に絞る |
| 構造解析 (応力・断面算定) | 構造は物の別の層 |
| 設備の計算 (負荷・風量・配管) | 対象外。PS・EV・機械室は空間として書ける |
| 勾配屋根・庇・パラペット | 未対応。陸屋根は導出される |
| 鉛直方向の複合プロファイル (立ち上がり + 笠木手摺) | 未対応 |
| 熱計算の 2nd Level 空間境界 | 対象外 |
| 建具の枠・金物・折戸 | 未対応 |
| 真北と測地座標 | 未対応。都市データ接続の前提 |
「未対応」と「対象外」を分けて書いてあることが要である。未対応は五つの問いに掛けて判断する候補であり、対象外は方針として持たないと決めたものである (属性の拡張)。
足すと目的が壊れる
実務解像度の追求をしない理由は、単に手が足りないからではない。
延床 31,606 ㎡ の複合建築が原本 12,685 トークンである。一棟が丸ごと LLM の一つのコンテキストに載る。同じ場面を IFC で書けば十数倍になり、実務のオーサリングツールが書き出すもの (数十 MB) はどのコンテキストにも載らない (IFC・USD との比較)。
軽さは目的ではなく、役割から出る結果である。そして役割は「書くしかないものを持つ」ことである — 意味と関係と同一性。形は現実側から取れるようになる (導出される情報)。
納まりを足せば、軽さが消える。軽さが消えれば、一棟が視野に入らなくなる。視野に入らなければ、エージェントが編集できず、差分が読めず、都市に載らない。カバー率を上げる操作は、この四つを同時に壊す。
解像度は「粗い」ではなく「そこで決まる」
粒度を細かくすることはできて、しかも安い。同じ複合建築で、基壇の層は 140 行で 92 空間を、ホテルの層は 117 行で 84 空間を出している — 1 空間あたり 2 行に満たない。テナント区画を細かく割り直しても、増えるのはこの割合である。
解像度の選択は、記法の限界ではなく設計判断である。駐車場を区画で数えず一つの空間として持つか、区画ごとに持つか。事務所の基準階を三つの貸室として持つか、レイアウトまで割るか。どちらも書ける。
そして書かれた原本の大きさは、建物の大きさではなく設計判断の数に比例する。
check は整合を守るが、寸法の現実性は守らない
ここは間違えやすい。
幅 2m のエレベーターも、奥行 30m の貸室も、check は緑にする。構成として矛盾していないからである (check の保証範囲)。
だから基本計画の解像度で「それらしい」建物を書くには、寸法を実在から取る必要がある。参考までに、実務の慣行と実在の製品から取った値をいくつか挙げる。
| 部位 | 値 | 根拠 |
|---|---|---|
| 事務所・商業の基本スパン | 8,400 | 日本の大規模オフィスの最頻値。駐車 3 台 (2,800×3) とも割り切れる |
| エレベーター昇降路 (1600kg 級・1 台) | 2,800W × 2,400D | かご 2,150×1,600 + カウンターウェイト + 躯体余裕 |
| 事務所基準階の階高 | 4,200 | 天井 2,800 + 懐 1,400 |
| 事務所貸室デプス (コア → 窓) | 8.4〜12.6m | 18m を超すと執務環境も構造も破綻する |
| ホテル客室 | 幅 4,200 × 奥行 8,400 ≈ 35 ㎡ | 幅 = スパンの 1/2 で割り切る |
| 中廊下 | 2,400 | ホテル・住宅の標準 |
寸法を先に決めてから空間を書く。逆にすると check は通るが建物にならない。これは規範ではなく設計の知見である — koyu が守るのは整合であって、現実性ではない。
上流と下流
この解像度は孤立していない。上流と下流の両方に伸びる余地がある。
下流へ — 決まった構成の上に、人が線を足して詳細度を上げる。位置の導出を減らし、ピンを増やす方向である。
上流へ — 敷地と企画だけを与え、構成そのものを生成させる。ピンが敷地と企画しかない方向である。この向きでは、書かれた原本は解の記録になる。確率的なのはエージェントの選択であって、書かれた原本は決定的な不動点である — ビルドは何度でも同じ建物を出す。
どちらも同じ記法の上に載る。現在の解像度 (解決済みの構成) を中点として、規定の語彙を細部側と企画側へ伸ばす同じ運動である。
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- IFC4 対応表 — 何が書けて、何を書かないか
- 持たないもの
- check の保証範囲
- IFC・USD との比較